お世話になっております!新入社員の道守みちるです!
先日、同じ依頼内容で3社から見積書が届いているのを見せてもらいました。わたしは一番下の金額を指さして、「ここでいいのでは?」と言いました。先輩に「その3枚、同じもの数えてる?」と聞かれました。数えていませんでした。
よく見たら、1社だけ「データ移行」の行がありませんでした。入っていなかったのではなく、そもそも別紙になっていたのです。
相見積もりって、金額のほかに何を見ればいいんでしょうか?
「安いほうを選ぶ」は、比べているものが同じときにだけ成り立ちます。同じでないなら、それは比較ではなく、ただの並べ替えです。今回はそこを整理します。
この記事で扱うのは、この3つです。📝
- 金額だけの比較が、なぜ後から高くつきうるのか
- 前提を揃えるために、こちらから渡しておくもの
- 契約の形が違うと、何が変わるのか
そもそも相見積もりは、何のためにとるの?🤔
相見積もり(あいみつもり)は、複数の会社から見積もりをとって比べることです。「あいみつ」と略されます。
目的は、たぶん値切りだけではありません。複数社に説明することで、自分たちの依頼内容が伝わる形になっているかを確かめられる、という効果のほうが大きい気がしています。3社に同じ話をして3社とも違う解釈をしたなら、悪いのは3社ではなく、こちらの説明のほうです。
金額だけで比べると、なぜ後から高くつくのか
【Point】金額の差は、たいてい「値段の差」ではなく「範囲の差」です。
わたしが見た3枚の見積書でも、実際に差が出ていたのはここでした。
- どこまでを含んでいるか:データ移行、既存システムからの切り替え、操作研修などが入っているか
- 保守の扱い:初年度が無償なのか、最初から年額で載っているのか
- 前提としている使われ方:何人が同時に使う想定なのか
- 契約の形:完成させる契約なのか、作業してもらう契約なのか
このうち最後の2つは、見積書の表面には書かれていないことも多いです。書かれていないものは比べられません。
見積書のどの欄を見ればいいかについては、こちらの記事で先に整理しました。今回はその一歩あと、「複数枚を並べたとき」の話です。
前提を揃える──同じ紙を配る
比較できる見積もりをもらうために、こちらからできることがあります。全社に同じ紙を渡すことです。
立派な仕様書である必要はありません。A4で1〜2枚、次のことが書いてあれば、だいぶ違うと思います。
- 何に困っていて、どうなったら成功なのか
- 誰が、どこで、1日に何回くらい使うのか
- 今回やること/今回はやらないこと
- いつまでに使い始めたいか
- 今あるデータをどうしたいか
この紙の作り方は、要件定義の話とほぼ同じです。発注する側が何を決めておけばいいのかのほうに、もう少し詳しく書きました。
もうひとつ。IPAが公開している「非機能要求グレード」という資料は、速さ・止まりにくさ・安全性といった非機能要求について、ユーザと開発者の認識の行き違いを防ぐことを目的に作られたものです。項目を網羅的にリストアップして6つの大項目に分類してあるので、「うちの場合、どこまで求めるんだっけ」を考える下敷きとして眺めるだけでも役に立ちます。
「請負」と「準委任」──契約の形で、責任が変わる
ここは、わたしが今回いちばん驚いたところです。同じ金額でも、契約の形が違えば意味が違います。
請負(うけおい)
ざっくり言うと、「完成させること」を約束する契約です。約束したものができていなければ、直してもらう、あるいは代金を減らしてもらう、といった話になります。
準委任(じゅんいにん)
ざっくり言うと、「作業をすること」を約束する契約です。完成そのものは約束の対象ではありません。ただし、成果に対して報酬を払う形の準委任もあります。
IPAの「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」では、民法改正を受けて「請負契約における契約不適合責任」(報酬減額請求権の追加、損害賠償と解除の位置づけ、権利行使の期間制限)や、「請負契約・準委任契約における報酬請求権」(成果報酬型準委任契約の位置づけ、中途解除の場合の報酬請求権)が、見直しのポイントとして整理されています。
【最重要】見積書を比べるとき、「これは請負ですか、準委任ですか」は聞いていい質問です。というより、聞かないと分からない質問です。
なお、わたしは法律の専門家ではありません。実際の契約の判断は、必ず専門家に確認してください。
| 差が出やすいところ | よくある違い | 聞いてみる言葉 |
|---|---|---|
| 対象の範囲 | 移行や研修が入っている/別紙 | 「どこまでが含まれますか?」 |
| 保守・運用 | 初年度無償/初年度から年額 | 「2年目以降はいくらですか?」 |
| 契約の形 | 請負/準委任 | 「完成の責任はどちらにありますか?」 |
| 非機能の前提 | 書かれていないことが多い | 「何人が同時に使う前提ですか?」 |
| データ移行 | 別見積もり/こちらで作業 | 「今のデータは誰が運びますか?」 |
| 追加費用 | 変更時の扱いが未記載 | 「途中で変更したらどうなりますか?」 |
「安すぎる見積もり」をどう考えるか
ここでよくある助言は「安すぎるところは避けましょう」だと思います。わたしもそう聞きました。
ただ、この助言をそのまま書くのは、少しずるい気がしています。いくらが安すぎるのか、わたしには分かりません。案件の中身も、会社の規模も、使う技術も違うのに、金額だけで線を引けるはずがない。相場の数字を書いている記事もありますが、わたしはその数字の根拠を確かめられませんでした。なので書きません。
代わりに、こう考えることにしました。安いこと自体は問題ではなく、安い理由を説明してもらえないことが問題だと。「自社に似た構築の経験があるので短くできます」なら納得できます。「とりあえずこの金額で」なら、あとで何かが増えます。
で、正直なところ
【結論】相見積もりで比べるべきなのは、金額ではなく「前提」です。とはいえ、その前提を揃える作業がいちばん面倒くさい。
正直に言うと、忙しい会社が3社ぶんの説明資料を作って、3社ぶんの打ち合わせをして、3枚の見積書を1行ずつ突き合わせる──これはけっこうな負担です。「そんな時間があったら1社に決めて進めたい」という気持ちは、わたしにも分かります。
なので、こう思っています。全部の案件で相見積もりをとる必要はないけれど、とるなら中途半端にやらないほうがいい。比べる準備をしないまま3社に声をかけると、いちばん安い紙を選んで、いちばん高い買い物になることがあります。
……と書きましたが、わたし自身はまだ発注する立場になったことがありません。実際にやってみたら「そんな悠長なこと言ってられない」となるかもしれません。そのときはまた書きます。
参考にした資料
- IPA(情報処理推進機構)「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」
https://www.ipa.go.jp/digital/model/model20201222.html - IPA「システム構築の上流工程強化(非機能要求グレード)紹介ページ」(アーカイブ)
https://www.ipa.go.jp/archive/digital/iot-en-ci/jyouryuu/hikinou/ent03-b.html

